縦裂FNO

俺はポエマー、すべてイカサマ。

創作「夕暮れと焼き肉」

「ゴミ、出してきて。空き缶。」

「え?空き缶の回収は昨日だったんだけど。」

「ええ?ならそこいらのテキトーなとこに捨ててきて。自販機の横にあるゴミ箱とかにさ。」

「やだよ….。」

「ああ?いいじゃんよ別に、そうしなきゃ片付かないんだって部屋が。」

「あー、はいはい。わかりました。」

ぼくはトートバッグに空き缶を詰め込み、素足にサンダルをひっかけると鍵も閉めず家を出た。

夕暮だ、暗闇が敷かれてゆくように、夕日が手を引かれて消えてゆくように、辺りは音もたてずに暗くなる。いや、さっき夕焼け小焼けが流れていたっけ。今日が終わる。月曜日が迫る。つまりまた明日から学校というわけ。姉ちゃんは明日有給を使って仕事を休むと言っていた。ズルイ。

空き缶をガツガツとゴミ箱へ放りこむ。パンパンに膨らんでいたトートバッグはぺしゃんこになった。

「ジュースが飲みたいな。」

今空き缶を捨てたというのに缶ジュースを買おうとしている。やめておこう、怒られる。

風が生ぬるい、心地よい、予想通りだ。きっとそうだと思っていた、外はきっと心地よいって。月曜日からの1週間を耐え抜く力を蓄えるためにも、日曜は極力家でじっとしていることが多いけれど、日が暮れるまでベッドやソファの上でだらだらとしているというのも、それはそれで虚しい気分になる。だから姉ちゃんに空き缶捨ててこいと言われたときは散歩の良い口実ができたな、と思った。口では「えーっ」て言っていたけど。

気付くと10分くらいは歩いていただろうか。何を考えていたんだっけ、あ、そうかハルカに彼氏ができたってこと考えていたんだ、つれぇなぁ、あんな可愛い子がガラの悪い筋肉バカの野球部野郎と付き合うとは。絶対あとで後悔するだろ、汚点だよ汚点、人生の汚点!女の子なんてみんな文系の地味な男と付き合ってりゃいいんだよチクショウ。運動ばかりしている人間は何を見るってんだ、何を感じるってんだ、何に気付くってんだ。あいつらいつも同じものしか見てないじゃないか。帰宅部を舐めないで欲しい、有り余る膨大な時間を思索に費やしているんだ、過去も今も未来も全部1歩上から見ているんだ、見ようとしているんだ、1本道をどれだけ早く走りぬけられるかしか考えていないあいつらとは違ってぼくは森を抜けなければならないんだ。

イライラにはカルシウムがいいんだっけ、ぼくは行き着いたコンビニで250ccパックの牛乳を買うと店を出て駐車場の脇に腰を下ろす。ストローを抜き出し、パックに差し込む。しかしストローがいまいち伸び切っていない気がした、沈み込みすぎている。ぼくはもう一度ストローを抜き出すと、先端を口に咥え反対側を手で摘みグググと強く引っ張り、再度パックに差し込む。「あんまり変わんねぇや。」

子供2人が目の前を、大きな声で笑いながら通り過ぎてゆく。日は完全に沈んでしまった。街灯が冴えない光を気だるく散らす。牛乳は1分で飲み終わった。あ、母ちゃんからメールだ。「今夜は焼き肉です。」

牛乳飲んで焼き肉食べるのか、牛ばっかだな、牛。帰るか。

虫が鳴いている、空は夜でも晴れている、帰らなきゃ、明日って月曜だっけ、寝たくねぇなぁ、やだなぁ、焼き肉、はやく食べてぇなぁ。