アンダーグラウンド
地下鉄に乗り込むと、僕はすぐに端の座席に腰掛け目を閉じる。車内は空いていた。電車はゆっくりと動き出す。
2,3駅通過した頃だろうか、ふわりとした風が僕の頬を撫でる。薄く目を開けると、窓が開いていた。そこから見えるのは、ただ真っ暗な景色。トンネルの壁。電車によって押し出された空気が、ゴゴゴ、と低い音を立てている。
そうか、ここは地下だけど、電車には窓があるのか、と考える。だって地下室には窓がないじゃないか、と。
勝手な、決めつけられたイメージ。
再び目を閉じる。こうしていると、電車はどの方向に進んでいるのか全くわからない。電車に窓が無ければ、人は進行方向を知覚できないらしい。これは昔ニュートンで読んだこと。当然、電車は前進しているのだけど、それはアタマが知っている常識、決めつけられたイメージ。カラダは感じていない。
この電車の行き先は......妄想は捗る。この開け放たれた窓から暖かな光が差し込み、爽やかな風が僕の目を覚まさせて......。
停車した電車、窓から覗くのは剥きだしのコンクリート、カビっぽい空気。なだれ込む人々。人身事故、振替輸送のアナウンス。
東京はどこにいても東京だ。地上も、地下も。
トンネルを抜けると、雪国ではなくて、ただの車庫。