縦裂FNO

日々、見るもの流れゆく物の例え。

(小説)ST∃M 『これは君の日々 2』

1 11.16 21:03 またやってしまった、わたしはそう思った。単にコンタクトをつけたままお風呂に入ってしまったというだけなのだが。わたしは湯船に潜り込んで、水中から水面を見てみたいのだ。しかしコンタクトをしていては水中で目を開けることができない。…

情報の必要性

その日は特に用事があるわけではなかったが、母の仕事が休みだということで、いつまでもダラダラと寝ているわけにはいかなかった。僕はいつもより少しだけ早起きをすると、顔を洗ってリビングへと向かった。すると母から朝の挨拶も無いままに「ねぇ聞いてよ…

今日もあしたも今日が終わる

数年前、旅行でとある県に行ったときのこと。観光のために延々と歩き回った僕は少し休憩をしようと、近くにあった喫茶店に入った。その日はよく晴れた暑い日で、僕は汗を拭きながら席に着くと、店のおばちゃんにアイスコーヒーを注文した。 「アイスコーヒー…

(小説)ST∃M

ある日、見慣れたはずの高級中華料理店は、ただの壁になっていた。 「そんなはずはない」わたしはそう思ったが、かといって確実にそこにあったという確信は持てなかった。ただ、過去にその店で一度だけコース料理を食べたことがあるという記憶だけが、その存…

小説2 『まわりまわって』

地下鉄を降りて地上に出ると、わたしの願いも虚しく雨脚は強くなっていた。ほんの数秒間、ずぶ濡れになった夜の街並みを眺めたわたしは、声にならない悔しさを噛みしめ、再び地上を背にした。たしか改札近くのキオスクにビニール傘が売っていたはずだ。 雨に…

生活時間

僕は今、両親と共に九州のとある田舎町にいる(田舎といっても娯楽施設が無いだけで、自然が多い的な田舎ではない)。父方の祖父母の家。 直前まで来る予定は無かった。東京でやるべきことは多かったし、本当はこんなところに来る余裕はなかったのだけど、…

死に続けている旧友

これから話す事は、子供の頃、当時の気持ちをそっくりそのまま表したものではない。まだ10歳にも満たない子供に、複雑な感情の絡まりを述べる術など無いのだ。ただ、歳を重ねるごとに、当時感じていたことが少しづつ言葉として蘇り、実態を帯びてきた。そし…

小説 『羽田で息を吐く』

「見送るのはいつだって僕の方だ」 羽田空港の屋上デッキで、どんよりと曇った空へ吸い込まれるように消えてゆく飛行機を眺めながら僕はそう思った。僕はここに居続ける。どこにも行けやしないのだ。思い返せば、ずっと昔もそう考えていた気がする。たぶんこ…

過去は今を生きているか

数時間前ことである。深夜にパソコンの画像を整理していると、フォルダの中の懐かしい写真に目がとまった。高校時代の友達との集合写真。熊本へ旅行する際、出発前に撮ったものだ。日付には2010年と記されている。つまり5年も前の写真だ。 パソコンなので写…

書くことに理由は必要だ

なぜ書くか、それは数えきれないほどの多くの作家が語っている事柄であり、今更ただの素人であるぼくが語る事でもない。 ただ最近更新していないこのブログの「つなぎ」の為にその理由を書きたい。本当に酷い理由だが、大して読まれもしないこのブログと言え…

Flip Out

じっと椅子に座っていると、時計の長針が「カシャッ」と音を立てて右回り。この音は1分毎に鳴るのだろうか。いちいちうるさいのだ。僕は時間を意識してしまう。僕は物凄く退屈していて、できるだけ時間は意識したくなかった。 そのまま20分くらいが経過した…

アンダーグラウンド

地下鉄に乗り込むと、僕はすぐに端の座席に腰掛け目を閉じる。車内は空いていた。電車はゆっくりと動き出す。 2,3駅通過した頃だろうか、ふわりとした風が僕の頬を撫でる。薄く目を開けると、窓が開いていた。そこから見えるのは、ただ真っ暗な景色。トンネ…

引き延ばされる一瞬

例えばこんな場面、モデルは郊外のマンションに住む27歳女性とする。 良く晴れた土曜日、彼女は少し長めの昼寝から目覚めた。枕元の時計は午後2時30分を指している。彼女は横になったまま数秒間、天井の一点を見つめ、それから短いため息をつくと、ゆっくり…

・季節外れは ・ハードモード ・前日

・季節外れは つい最近まで東京の最高気温は連日35℃を超えていた。もはやこの気温だと季節を楽しむどころか、下手に出歩くと熱中症で生命に危機が及ぶ程の暑さである。しかしここ数日はそれまでの猛暑が嘘のように涼しい。もはや夜や明け方は涼しいどころか…

知らないどこかで2

意識を保つことができる限界の状態、眠りに落ちる直前というのは、体の感覚が異常なほど過敏になっている。例えば、知り合いが耳元で何かを語りかけてくる想像をする。すると、その想像上の知り合いは普段の想像の何倍もの現実味を帯びて僕に語りかけてくる…

知らないどこかで

午前2時は過ぎていたと思う。真夜中のことだ。僕は部屋の電気を消して間接照明を灯すとベッドに潜りこんだ。スマホに充電器に差し込みアラームをセットする。そしてすぐに読書に取り掛かった。 2~3ページも読むと、だんだんと目が文字を追う事に慣れてきて…

いつも何かが考え事の

「ステム君(僕)って人の話聞いてないよね」って言われることが多い。その通りだ。僕は人の話をあまり聞いていないし聞かない。しかしこれには理由がある。最近気付いたことなのだが、それは他人が僕に話しかけているときが一番考え事に集中できるからだ。…

映画は男向け?

最近なかなか面白い映画論文を読んだので、分かりやすかった部分をちょっと紹介。その論文で語られている事は「映画は男向けだ!ふざけるな!」というもの。 覗き見る対象としての女性 まず、映画がなぜ楽しいかということを考えると、それは「覗き」という…

朝ならば

以前は休みの日に早起きする習慣を身につけていたけれど、大学生になった頃くらいからだろうか、その習慣はすっかり失われてしまった。大学生にもなると、多くの人がそうであるように飲み会やレポートで徹夜することは当たり前となる。そうなると必然的に寝…

知ってること、知らないこと

マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて 第4巻 花咲く乙女たちの陰にⅡ』の序盤にこんな例え話がある。 牢獄か施療病院で生まれた子供が、人間の器官は干からびたパンと薬しか消化できないと長らく思い込んでいたのに、あるとき不意に、桃も杏子も…

ドレスデン・ホロコースト

ドレスデン爆撃と聞いてそれを知っている人はどれくらいいるだろうか。あまり多くはないはずだ。かく言う僕もその爆撃があったこと自体は知っていたが、名前だけ、という程度だったのだ。しかし、最近読んだカート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5…

眠ることへの恐怖心

変な話だが、僕は悪夢を見るときはそれが事前にわかる。 眠気というのは一種の快楽だ。息を吸い、そして吐き出す度に心地よい吐き気のような感覚が全身に巡り、だんだんと体が泥に沈むように重くなってゆく。通常ならばこの段階で意識が朦朧としてきて、頭…

友人の父の死に思うこと

先日、中学時代からの知り合いである友達の父親が亡くなっていたことを知った。その友人とは中学時代は本当によく遊んでいて、大の親友だった。家が近かったということもあり、彼の家へも何度も遊びに行っていたので、当然その父親と何度も顔を合わせていた…

建物の昼と夜

今は取り壊されてしまっているが、家から自転車で15分程度走ったところにゴルフの練習場があった。だだっ広い土地の外周には緑のネットが張られていて、昼夜問わず大人たちが打ちっぱなしに興じていた。僕はなんとなくそれを見るのが好きで、少し遠周りにな…

覚めない夢は

僕は電車に乗りこむなりすぐに最初のページを開いた。カート・ヴォネガット・ジュニアの自伝的小説『スローターハウス5』。この日に備えて買っておいた本だ。 これは先日の日曜日のこと。僕は朝6時54分に最寄駅から電車乗り込み、7時35分にはJR京葉線で東京…

夏はよく人が死ぬ 後編

僕は無響室に入った事がある。無響室というのは字の如く、音が吸収され響かない部屋のことで、ここで声を出しても耳をふさいで喋っているような感じがするし、声もいつもより大きく発声しないと相手に届きにくい。手を叩いたときに出るパンッという音も、部…

青春への決別

人間はいつ、「青春が終わった」と感じるのだろう。僕はこの問を何人かの知り合いに尋ねたことがあるが、「10代まで」と答える人もいれば、「大学を卒業したら」、「30代になったら」と答えは人によってばらばらだった。 三島由紀夫は『潮騒』を29歳で、村…

語られることへの言い訳

村上春樹の処女作『風の歌を聴け』の冒頭は非常に面白い。僕はこの冒頭が大好きだ。ここで語られていることは、29歳の青年村上春樹が、書くことへの決意と「僕には何も書けないのでは?」という恐れ、そして書かれる内容への言い訳が素直に語られている。そ…

夏はよく人が死ぬ 中編

父とプールに向かう道中、特に会話らしい会話はしなかった。 黙って車に乗っていると微かに走行音が聞こえる。エアコンの音も聞こえるし、ラジオも聴こえる。会話は無かったとしても決して無音ではない空間。でも僕は「静かだなー」と思ったのを覚えている。…

夏はよく人が死ぬ 前編

小学3年生の頃の話。 8月に入り夏も盛りの頃、僕は何をするでもなくただボーっと夏休みを過ごしていた。友達もそれほど多いほうでは無かったから、やることと言えば宿題をするか、横になって天井を眺めているか、そんな夏休みの日々。しかし退屈だったという…